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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

顧客起点の経営改革を断行し、柔軟に変化できる組織へと進化する

2022年9月15日、JMAトップマネジメント研修・新任執行役員セミナープログラム内/経営者講演より

亡き父と伊藤名誉会長から学んだ「利他の精神」

私は1957年に生まれました。人口2,000人ぐらいの田舎町で育ち、両親は共に学校の先生です。父はとにかく挨拶にうるさい人で、「挨拶は自分からしろ」と言い聞かされました。田んぼで農作業をする方がいると、大声で「こんにちは、ごくろうさまです!」と言わないと怒られました。倫理観を徹底的に鍛えてくれた父です。愛情を込めて育ててもらいました。

高校から下宿を始めました。東京の大学卒業後は伊藤忠商事に就職したので、16歳以降は実家で過ごす時間はとても少なかった。27歳の時、父が事故で亡くなりました。葬儀で喪主を務めたのですが、約2,000人の方々にご参列いただきました。みなさん、口々にいかに父に世話になったかを僕に語るのです。父は人に尽くした「利他」の人だった。本当にかっこいい。こういう人間になりたい。できればそういう人生を歩めたらいいなと思いました。

1981年に伊藤忠商事に入社して以来、トレーダーの業務を担当してきました。物を動かして利益を稼ぐ仕事です。その後、1992年、アメリカのセブンイレブンを運営するサウスランド社の経営破綻を受け、イトーヨーカ堂や伊藤忠商事が株を取得、事業継承することになり、私は再生プロジェクトへの異動を命じられました。

イトーヨーカ堂の伊藤雅俊名誉会長と一緒にアメリカのセブンイレブンの店舗を回りましたが、店舗ではさまざまな問題が起きていました。ランチタイムに食品がない。ヒスパニックの店員だけで誰も英語が話せない。伊藤名誉会長は丁寧に話を聞いてメモを取り、アメリカ側のセブンイレブン役員との会議で店舗のひどい現状を具体的に挙げながら、「お客様に失礼だ!恥ずかしくないのか!」と烈火のごとく怒鳴るのです。

伊藤名誉会長はお客様、加盟店がどのように思っているのかを最も大切にしていました。「利他」なのです。利他をやった結果、自分に戻ってくるのだと強く感じました。そして、社長自らがお客様や加盟店のために自ら汗をかく姿にたいへんな感銘を受けました。利他の精神。父、そして伊藤名誉会長。私もそういう人になりたいと強く思いました。

その後、激変する小売業界の環境変化を目の当たりにしながら、人材やネットワーク等多くのアセットを持つ伊藤忠商事こそが小売業に本格的に参入すべきだと思い、私は社長に直談判し、新規事業を立案するプロジェクトの責任者になりました。予算を獲得、人事を指名した上で2年弱チャレンジしましたが経営会議で次期尚早と判断され事業は見送り。私は新天地を求めて退職しました。

規模拡大ではなく、“質”を高める改革を決意

ユニクロ、外資系ファンド、企業支援会社の経営を経験した後、ファミリーマートの社長に就任したのは2016年です。ファミリーマートがユニーグループ・ホールディングス(株)を吸収合併し、コンビニエンスストアの「ファミリーマート」(1万2,000店)と「サークルK・サンクス」(6,000店)が統合することになったのです。親会社である伊藤忠商事の岡藤正弘社長(当時)から声をかけていただき、世界でも類をみない統合をやり切る役割を任されました。

当時、コンビニ各社は毎年、1,000店規模でその店舗網を拡大していました。しかし、マーケットは成熟期に近づいてきており、ドラッグストアやミニスーパー、ECなどさまざまな競合が増えていました。これからは数を増やすのではなく、1店1店の質を上げるべきだと思いました。でも、それは社長がいくら号令をかけても無理です。チェーンは約1万7,000店舗に上り、工場や物流を合わせると30万人にも及ぶ方々の働きによってファミリーマートは支えられていました。その全体が一つになって取り組まなければ質を上げることはできないと考えました。

改革のために私が掲げたのは次の4つのテーマです。

まず、「One FamilyMart」。サークルK・サンクス、ファミリーマートがひとつとなり、加盟店とお客様のために一丸になって改善に取り組むことです。

次に「誰が正しいではなく、何が正しいか」ということ。社長や上司だって間違うことはあります。私もいっぱい間違えます。だから、「何が正しいか?」を議論するのです。

そして「生産性の向上」。少人数で売上と利益を挙げるにはどうするかを徹底的に考えるのです。

最後は、「未来につながらないことは断捨離する」です。

この4つを示して、社長の私は周りが反論できないぐらい仕事をする。背中を見せる。そして結果を出す。そこにコミットして仕事を始めました。

会場風景
社員、加盟店、取引先と本気で向き合い、課題に耳を傾ける

まず、現場の状況を深く知りたいという想いから、2週間の店舗研修受講し店長の資格を取得しました。加えて、本部の各部門のミーティングへ参加し、また、多くの加盟店を訪ねて、いろんな人の話を聞きました。現場を自分の目で、耳で確認して、問題点を整理したのです。

見えてきたのは、社員が「上を見て仕事をしている」ことです。当時は各チェーンが規模の拡大を進めていた背景もあり、本社からの出店計画に合わせて社員が動いていて、加盟店やお客様を見ていない。大きな違和感がありました。加盟店はこの瞬間にも100円、200円の商品を売ってくれています。その加盟店のために仕事をしなくちゃいけない、と痛感しました。そして工場や物流を担う取引先です。みなさんがいて、初めてファミリーマートという巨大産業が成り立ちます。このことを肝に命じて、みなさんと徹底的にコミュニケーションする。伝えられなかったら全部自分の責任だと考え、実行しました。

まずは、社員です。現場で仕事をする社員が会社の方針を理解し、同じ方向を向いてくれないといけない。就任後、「気合注入講演会」と銘打って全国をまわり、約6,000人の全社員に自身の想いを伝えました。業務では社員には言うべきことははっきりと言いました。社員が加盟店やお客様ではなく、上司や本社を考えて仕事をしていることが分かると、「どこを向いているんだ!」と本気で怒りました。

出張以外は毎日、本社の社員に社長室に来てもらってランチをしました。その数約2,000人です。統合前の所属会社が異なる社員たちが、私とランチを食べながら、ざっくばらんに話し、社員からは会社の不満をたくさん聞きました。そして僕も考えていることを伝えました。社員からはアンケートで意見を取り、すべてを公開しました。特に会社の悪い部分を指摘してくれたアンケートが中心です。

加盟店には私から出向いて、思いを伝えて、一緒に写真を撮りました。アンケートも取り、これも公開しました。取引先にも今後、ファミリーマートが大事にしていくことをお伝えし、ここでもアンケートをお願いしました。

コンビニ経営は “ダーウィンの進化論”

店舗オペレーションの改革では、「現場第一主義」を掲げ実行していきました。

就任当時、現場のオペレーションは混乱を極めていました。
コンビニエンスストアはこれまで多くの新しいサービスを取り入れてきましたが、統合に次ぐ統合でマニュアルは整理されないまま膨大な量となり、また、出店戦略が最優先の中で部門間の連携が不足したこともあり、加盟店には大変難しいオペレーションをお願いしている状況でした。

この状況を抜本的に改革するべく、「オペレーション委員会」という部門横断の組織を立ち上げました。
加盟店からのアンケートで、皆さんが何に困っているかを詳らかにし、課題解決のための専任部署を新設しました。また、既存の相談室の機能も拡充し、対応メンバーも増やしました。

いくつか事例を紹介します。
POSレジでは年齢性別キーを廃止しました。
レジの作業は、電子マネーやプリペイドカードなど支払い方法が多様化していて、とても煩雑です。これまでは会計の最後にお客様の顔を見て、いくつくらいの方なのかをスタッフが判断し、性年代をボタン入力しないとレジが開かない仕組みでした。一方、ファミリーマートは、Tポイントカードを導入していて、属性が分かり、利用率が高いので、そのデータで十分です。年齢性別は作業負荷が大きく、不要だと強く感じたので、「取れ!」と指示をしました。

また、値札には商品の写真を記載するようにしました。外国人のスタッフも多いので、写真があれば商品を並べられます。これは現場の社員が「社長、こう変えましょう!」と提案してくれて実現したものです。本当に嬉しく思いました。

経営の構造改革も行いました。私が社長になって、「未来につながらないことは断捨離する」と宣言しました。既存店は約3,300店舗を閉めました。これまでは店舗数拡大が前提でしたが、「質の向上」の方針のもと物流拠点や工場も整理しました。断腸の思いで人員の削減も行いました。コロナ禍前に実行できたので、退職金を上乗せして自主退職を募り、再就職先が決まってから退職してもらうことができました。本当にありがたかったです。

コンビニの経営で大事なのは、ダーウィンの進化論です。生き残るのは、強い者や賢い者ではなく、さまざまな変化へ柔軟に対応できる者です。そこが一番大切です。変化できる組織、変化できる会社を作っていかなければならないと思いました。

2020年11月、ファミリーマートは株式の上場を廃止しました。これからはドラスティックに変わり、さまざまなことを仕掛けていかなければならないと判断したからです。そして、「徹底的な地域密着」と「店舗価値を追求するためのDX」を主眼に未来図を描き、さまざまな取り組みを今も続けています。

私が社長を退任した後、ファミリーマートの既存店の売上前年比は業界でずっとトップを維持しています。スムーズに引き継ぎができて、みんなが頑張っているからこそ、トップを維持できている。気持ち良いですね。

今日の講座を受けているみなさんは企業のリーダーであり、選ばれた方々です。私は、組織はリーダーによって99.99%変わると思います。みなさんの束ねている組織は、みなさん次第です。

私自身がこれからやり続けたいと思うのは、一人でも多くのステークホルダーを物心両面で幸せにすることです。ファミリーマートの場合はお客様、加盟店、取引先、社員がステークホルダーです。京セラの稲森和夫さんはずっと「物心両面で幸せにする」と言い続けてこられた。本当に素敵な言葉だと思います。私もまだまだできていないけれど、一人でも多くの人を物心両面で幸せにすることを実行していきたいと思います。