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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

世の潮流を読み変化に適応 志を持って果敢に行動する経営を

2024年7月19日、JMAトップマネジメント研修・新任執行役員セミナープログラム内/経営者講演より

血球計数検査でグローバルシェア1位

シスメックスは1968年に神戸市で生まれた会社です。東亞特殊電機(現TOA)が製造する医用電子機器の販売会社として設立され、その後、生産や開発領域に事業を拡大してきました。現在は、臨床検査機器、検査用試薬、関連ソフトウェアの開発、製造、販売といった事業をグローバルに展開し、2024年3月期の連結売上高4,615億円のうち海外の売上が86.5%を占めています。

弊社は、数ある検査機器の中でも特にヘマトロジー(血球計数検査)分野に強みを持ち、グローバルシェアNo.1、世界で50%以上のシェア率を誇ります1。検体検査事業における売上高は世界8位で、トップ10の中で唯一のアジア企業です2。会社のベースは日本にありますが、関連会社の数は海外の方が圧倒的に多く、研究開発は9カ国25拠点、試薬生産は10カ国14拠点、販売・サービスは44カ国62拠点に広がっています1。2019年にはインドでの直接販売・サービスを開始し、今後さらにグローバルサウスにフォーカスしていきたいと考えているところです。

我々のビジネスは、機器を販売した後、専用試薬とサービス&サポートを継続的に供給するというスタイルを取っています。売上で一番大きなウェイトを占めているのが試薬、次に機器、サービス&サポートと続きます。機器を購入していただくと、7、8年は試薬の供給が継続するため、安定的な収益が得られるビジネスモデルを展開しています。

環境の変化を読み先手を打って成長

弊社が現在のポジションを獲得するまでに大切にしてきたのは、環境変化の先を読むということです。例えば、1989年のベルリンの壁崩壊、さらに93年のEU発足と通貨統合によって、ヨーロッパでは各々国内でビジネスをしてきた企業がグローバルで戦わなければいけない状況が生まれました。その変化を捉えて、シスメックスは現地の販売代理店のM&Aを進め、直接販売体制への変革を実現しました。そのほかにも、85年のIT革命、2003年のゲノム解析、さらにはリーマンショックといった経済の大きな変化もありました。こうした変化は困難のように見えるかもしれませんが、チャレンジャーにとってはチャンスです。世の中の変化に対して、経営者は変化の潮目を読み、これからどうなるかにイマジネーションを働かせ、早めに手を打っておかなければなりません。

そういう意味では、経営とは「環境適合」であるともいえるでしょう。弊社の場合、1960年代には高度経済成長と国民皆保険を背景とする検体数増加に合わせて検査の自動化に取り組み、63年に国内初の自動血球計数装置の実用化に成功しました。80年代に入ると、エイズなどの感染症の脅威が社会問題となり、検査効率と医療者の安全確保が課題となりました。そこで、検査の生産性と安全性の向上を目指して、血液に触れることなく検査できる世界初のヘマトロジー搬送システムの販売を開始しました。2000年代には医療のIT化が進んだことで検査もデジタル化のニーズが高まり、検査機器のネットワークサービスの提供を始めました。2010年代になると、ゲノム検査など個別化医療や精密医療が広がり、そうした新しい医療に対応した価値の高い検査や診断技術の創出、提供にも取り組んでいます。こうして時代の変化、技術の変化を先読みし、検査ニーズに先手を打つことで成長を続けることができたといえると思います。

会場風景
強みを武器にグローバルメジャーと手を組む

弊社は、ロシュ(スイス)とシーメンスヘルシニアーズ(ドイツ)という、2つのグローバルメジャーとアライアンスを結んでいます。元々日本の小さな会社だった我々が、グローバルメジャーとのアライアンスを実現できたのは、ヘマトロジーという強みがあったからです。たとえばロシュは医薬品分野が強いのですが、我々には彼らとは違う強みがありました。「これだったら負けへんで」という強みを作り、それを磨いてきたからこそ、彼らに「組みたい」と思わせることができた。逆に、彼らと同じことをしていたら買収されてしまったかもしれませんね。このアライアンスによって、彼らの開発やエビデンス取得のノウハウを吸収し、シスメックスの国際的地位を高めることもできました。

グローバルに事業を展開している我々は、世界の各地域を尊重し、多様性を認めて海外ビジネスに日本を持ち込まないというスタンスを取っています。現地メンバーによるビジネス展開を重視し、米州、EMEA、アジア・パシフィック、中国の4地域とも、現地のトップは非日本人です。各地域に日本から社員を送り出してはいますが、若手や中堅が中心で、トップ層は現地採用の社員が務めています。シスメックスは日本の会社であり、日本で開発した機器を売っていますが、大事なのは現地のお客様にそれをどう活かしていただくかということです。本社との繋がりを考えてトップは日本人に、という考え方もあると思いますが、弊社ではとにかく日本人をトップに据えないことを徹底しています。本社や研究開発にも外国人を積極的に採用し、優秀な人材を輩出していることで知られるインド工科大学からも毎年数名が入社しています。彼らにも将来は海外でトップ層を担ってくれることを期待しています。

我々のさらなる挑戦としてご紹介したいのが、外科領域への進出です。同じ神戸に拠点を構える川崎重工業と合弁会社「メディカロイド」を設立し、川崎重工が持つ産業用ロボットの高い技術力と、弊社が持つ検査・診断の技術やノウハウを活用した手術支援ロボットを開発しました。手術支援ロボットは遠隔操作ができるため、外科医不足や過疎地医療という現在の医療課題に対する有効な解決策となり得ます。また、優秀な外科医の“神の手”は多くの患者を救うことができる一方、その技術をほかの医師が学びにくいという問題がありました。しかし、神の手を持つ医師が手術支援ロボットを使えば、ロボットの鮮明な映像でその技術を繰り返し見ることができ、若い外科医が効率良く技術を習得できるようになるかもしれません。手術支援ロボットの世界では、アメリカのダヴィンチがリードしていますが、日本の産業用ロボットの技術は非常に高く、それをうまく応用すれば世界に通用すると考えてチャレンジしているところです。

経営力とは志を持ち潮流を読んで会社という船の置き場所を見極める力

次世代のリーダーであるみなさんに私からお伝えしたいのは、志を持ってほしいということです。経営者は常に志を持ち、その上で会社をこれからどうしていくか、どう変えたいかを考えなければなりません。また、経営において重要なのは、潮流を読む力です。世の中には「流れ」があります。経営力とは、その流れを読み、流れに対して自分たちの会社という船の置き場所を見極める力だと私は思います。潮流を読み、流れの強い場所に船を置くことができれば、何もしなくても船は速く進み、漕ぐことでさらに加速が可能です。逆に、逆流している場所に船を置いてしまうと、いくら社員が一生懸命漕いでも前には進みません。また、停滞している時は、流れが強い場所を新たに探し、そこへ船を移動させることも必要です。想像力を働かせ、今、世の中にはどんな流れがあるのか、それは今後どう変わっていくのかを先読みしながら会社の舵を取っていただきたいと思います。

また、先ほども申し上げましたが、チャレンジャーにとって変化はチャンスです。流れを読み、この技術が面白いというものを見つけたら、「とにかくやるんや」と積極果敢にチャレンジする気持ちを持ってほしい。どんなことでも、何もしなければ必ず停滞します。うまくいかないケースにばかり目が向いてしまいますが、時には物事をシリアスに考えすぎないということも大切です。楽観主義的に「何とかなる」「こうしていこう」と前向きにとらえる健全な危機感と、積極果敢にチャレンジし、不退転の決意でやり遂げる意識をぜひ持っていただきたいですね。

私は「意あらば通ず」を座右の銘としています。経営者は、誰かがこう言っているから、あの会社がこうやっているから、と周囲に惑わされることなく、自分はこうするのだという「意」を持たなければなりません。会社をどうしたいのか、そのために自分が何をするのか、変化にどう会社を適応させるのかを考える上では、視野を広げて好奇心を持つことも非常に重要です。最近で言えばAIを始めとする情報技術が急激に伸びていますが、新技術の情報をいち早くキャッチし、オープンイノベーションでいかにどこと組むかを考えることや、どう活かせるのかを議論することが、会社に次の変化をもたらします。会社を変え、その変化によって成長を持続させることがみなさんの重要な責務だと思います。みなさんがお持ちの新しい“芽”を、ぜひうまく花開かせていただきたい。これからの果敢なチャレンジに期待しています。

12024年3月末現在

22024年開示情報に基づく当社推定(2024年5月末現在)