花王鹿島工場は、国内生産拠点10工場の中でも、ケミカル供給拠点に位置付けられています。生産量の約6割を外販用の工業用製品(トナーバインダー、アスファルト改質材)が占め、1割が外販用の食油製品(豆腐凝固剤、ショートニング)、3割が社内向けの家庭品用基材(洗濯洗剤や食器用洗剤の原料)となっています。
茨城県神栖市の北部、鹿島臨海工業地帯にある鹿島工場は、人工的に陸地を掘り込んで作った鹿島港と、天然の神之池の間に位置し、港を掘削した土砂で神之池を埋め立てた土地に建設されました。
当工場は、敷地内に約16,000㎡の『社員の森』があることが大きな特徴です。社員の森は、初代工場長が「花王で一番美しい、緑に囲まれた工場を作る」という強い思いのもと、埋立地の土壌を改良して造成しました。鹿島工場勤務になった社員一人一人が植樹する歴史があり、現在約900本が植えられています。私も3年前に着任した際に梅の木を植えました。自分の木には愛着を感じますし、それに合わせて、工場への愛着も強く感じるようになったと思います。
昨年のデータによると、鹿島工場の社員の平均年齢は41.6歳。20代と50代が多く、非常にアンバランスな年齢分布となっています。仮に社員数がこのままだった場合、5年後の2028年には、60歳以上のシニアパートナーが社員の26%を占め、現役世代の業務負荷増加、シニア世代のモチベーション低下が懸念されます。さらに10年後の2033年には、シニアパートナーの退職によるベテラン社員が減少し、子育て世代である30代が増えるため、技術の確実な継承や育児負担の増加が課題となることが予測されます。
また、社会情勢に対応し、働き方改革、容易な転職、ESGといった企業で対応すべき問題が生じることが考えられる一方、現場DXによる技術革新で業務の効率化が進むことも期待されます。
5年後、10年後を見据え、鹿島工場では「チャレンジでき、“自分らしくいられる”職場」「風通しの良い、“One Team”の職場」「家族、友人、社会に誇れる職場」の3つを工場のあるべき姿(ビジョン)に掲げ、「花王鹿島工場で働いていて良かった」と感じられる工場づくりを進めています。
私たちは、このビジョンに対して3つの工場目標を立てました。それが「ストレスフリーオペレーションの実現」「心理的安全性の向上」「ESG活動の推進」です。また、工場目標の達成に繋がる11の具体的な方策に取り組んでいます。
まずはじめに、「ストレスフリーオペレーションの実現」のための4つの方策を紹介します。
1つ目は、花王の全社活動であるTCR活動です。TCR活動では、改善活動を前年度からの削減金額として評価します。たとえば、安価原料の採用による変動費削減、現場作業の負荷低減による労務費削減などです。TCR活動は改善活動の一部であり、ムダをなくし余裕をつくることで、ストレスフリーオペレーションに繋がります。
2つ目が、2006年に導入した改善提案システムです。改善提案システムでは、安全や衛生について何か「気づき」があった時、社員全員が改善提案の内容、予測効果などを入力することができ、それに対して職制を含めたグループで検討し、部門長や工場長が実施を判断します。その後、関連部門と協議して改善を実施。提案だけで終わらせず、職制が完了までフォローすること、提案者だけでなく実施者も評価し、提案すればやってもらえる雰囲気を醸成することを重視して取り組んでいます。
3つ目は、The GEMBA Knowledgeシステムの活用です。操作ミス、機器故障、規格外などのトラブルが起きた際、情報を報告するための電子システムで、当工場では2011年から運用しています。トラブルを発見したら、誰もが「気づき」を入力でき、進捗状況も一覧で表示されます。過去の類似トラブルを検索できるので、対策の参考にもなっています。
4つ目は、技術伝承、新入社員や転入社員の即戦力化などに対応する創造革新グループの創設です。20~30代の若手メンバーで組織され、教育動画作成などの教育支援、現場DXによるアプリ開発など新規技術導入、不要アラームの撲滅などの改善支援を実施しています。
次に「心理的安全性の向上」に向けた4つの方策を紹介します。
1つ目として、工場長と社歴の浅いメンバーが、目の前で起きている“いいね”や“困ってる”を共有して働きやすい職場のための改善に繋げる「鹿島ラウンドテーブル」が挙げられます。鹿島ラウンドテーブルにおいても、聞いただけで終わらせないことを重視し、参加メンバーには後日必ずフィードバックを行います。また、上がった声は工場の課題として捉え、職制全員と課題共有して対策を実施しています。
2つ目の取り組みが「鹿島チャレンジ表彰」です。これは、TCR活動によるコスト削減金額、改善提案件数などの上位者、改善実施の貢献者などを表彰するもので、協力会社の方も対象となる鹿島スーパーアシスト賞も設けています。表彰を通して、工場で働くすべての方に感謝の気持ちを表し、改善の提案者だけでなく実施者の貢献も称賛しています。
3つ目に、課長以上の職制とグループリーダーが現場で作業メンバーと対話する「安全団結時間」があります。現場メンバーの困り事を聞くことで改善に繋がるだけでなく、職制やグループリーダーは自分の担当エリア外に赴くことで、新しい気づきや発見があり、自グループへの水平展開も可能になります。
4つ目は、5Sコミュニケーションです。これは、不要物の撤去と区画化で働きやすい職場をつくり、災害リスクを軽減するものです。撤去作業は負荷が大きく、工場長の私を含め、都合が付く職制やグループリーダーも参加します。他部門のサポートを得ながらみんなで一緒に取り組む5S活動で、One Teamの意識醸成にも役立っています。
最後に「ESG活動の推進」を図る3つの方策です。
1つ目に挙げられるのは、冒頭で説明した『社員の森』の存在です。鹿島臨海工業地帯という化学コンビナートの中にあって、社員の森には、豊かな緑とさまざまな生命の営みがあります。先人の意思を継ぎ、今後も維持管理に努めていきたいと思っています。また、地域社会と連携した自然保護活動に取り組んでいます。
2つ目は、工場見学、小学校での出前講座、地域主催イベントへの参加による社会貢献活動です。消費者に役立つ情報や、子どもが化学に触れる機会を提供しているほか、海岸清掃、小学生へのハンドソープの寄贈など、幅広い活動を行っています。
最後に、社内で取り組んでいるリサイクル活動を紹介します。2022年から花王は「もったいないを、ほっとけない。」というスローガンを掲げ、循環型社会に貢献する取り組みを行っています。鹿島工場でも、結束バンドやプラスチック段ボールの再利用、食堂の生ごみの堆肥化などを展開しています。また、社内のリサイクルステーションでは、不要になった段ボールや緩衝材の再利用などを図り、ごみの細分化と分別回収も実施しています。
さまざまな方策を実践した結果、ストレスチェックでは、仕事の量的負荷やコントロール度を示す健康リスクA、上司および同僚の支援を示す健康リスクBともに低下しています。また、改善提案システムのデータによると、作業削減時間は増加傾向にあり、作業負担が軽減されていると考えています。さらに、所定外労働時間の短縮、休暇取得率の増加も見られ、こうしたことから、ストレスフリーオペレーションの実現、心理的安全性の向上が図られていると考えられます。
3つの工場目標に向けて、今後もさまざまな取り組みを実践していきます。たとえば、現場DXやAIによる改善活動によって余裕を生み出し、労働災害や事故の撲滅を図ります。また、今後のシニア社員増加に対応し、DE&I(Diversity/Equity&Inclusion)の活動もさらに進めていきます。リサイクル活動と工場のシンボルである『社員の森』の維持管理を継続し、地域貢献活動を通して「花王鹿島工場が神栖市にあって良かった」と言っていただける工場を目指していきます。
今回、GOODFACTORY賞の応募過程で整理した、3つの工場目標にフォーカスし、進化させながら、社員が「鹿島工場で働いて良かった!」と感じられる工場運営を実施していきたいと思います。