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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

【第12回】2024 GOOD FACTORY賞 受賞企業講演会〜優良工場の実践事例に学ぶ〜

受賞講演(8) ファクトリーマネジメント賞
リコーインダストリー株式会社 東北事業所
Release May. 2024

2024 GOOD FACTORY賞 表彰式イメージ
[講演内容]たゆまぬKAIZEN活動は『有事』に活きる 創業時から受継がれるものづくりのDNA
リコーインダストリー株式会社 東北事業所
執行役員 東北事業所 所長 プリンタ生産事業部 事業部長
庄司 勝 氏

「生産のリコーウェイ」のもとでともに学び合い高め合う

リコーインダストリーは、国内に厚木、勝田、東北の3事業所を構えています。私たち東北事業所は、1967年、東北リコーとして設立され、2013年の会社再編にともないリコーインダストリーとなりました。仙台市から25㎞ほど離れた宮城県柴田町に位置し、リコーのプリンター・複合機の中でも、大型で中少量のフラッグシップモデルを製造しています。生産事業としては、プリンターの完成品を生産する本体事業、スペックを支える部品を生産するキーパーツ事業、トナーを生産するサプライ事業の3つがあります。

リコーグループでは、生産領域に特化した「生産のリコーウェイ」を掲げています。ものづくりの土台として12の基礎を定め、これに沿って国内外の22生産事業所で生産事業活動を展開してきました。この活動の特徴は、全世界の従業員に周知するだけでなく、毎年1回、全生産事業所の実践度合いを全世界の工場に赴きながら評価している点にあります。評価が低かった事業所は高い事業所に学び、過去3年のデータではほぼすべての生産拠点で実践度が向上しています。ともに学び合い、全体を高めていく。これがリコーグループの生産のこだわりです。

本日は、生産のリコーウェイに沿って、私たち東北事業所が独自に取り組んでいる「はたらきやすさ」「KAIZEN活動」「生産革新」「防災(BCP)」の4つの活動について紹介したいと思います。

女性メンバーによるプロジェクト「BIG SMILE」が全社活動を牽引

1 はたらきやすさ ~事業所を横断した間接職場の5Sレベル向上活動(BIG SMILE)~

この活動は、間接職場での5S活動の取り組みです。2011年の東日本大震災発生時、職場で物や書類が散乱し、本来はすぐに壊れた設備や機械のもとへ駆けつけなければならないところ、機動的に動くことができなかったという反省を受けてスタートしました。
当初は部門ごとの基準や考え方の違いが課題となりましたが、2019年、女性メンバー主体のプロジェクトが発足し、5Sの強化と習慣化により安全で明るく楽しくはたらきやすい職場を目指す全社活動がスタートしました。この活動の愛称が「BIG SMILE」です。
プロジェクトの女性メンバーは、それぞれ本務がある中で、時間をつくり、女性の繋がりやきめ細かな視点で、全社横断的に5Sを進めてくれました。今年4月にはメンバーから管理職が誕生し、本当に誇らしく、嬉しく思っています。

活動においては、まず全フロア共通認識に向けた土台づくりとして、事業所共通5Sルールの整備と周知に取り組みました。当事業所は9つの工場に分かれているため、共通ルールを制定して各フロアで周知を進め、ほかの工場とのクロスチェックによる定期評価を毎月行って習慣化を図っています。
また、5Sの重要性と活動内容を浸透させるため、事業所長の私が出演して活動を紹介する動画を制作し、食堂のサイネージや休憩所のモニターで流しました。全員参加を図るため、ソーシャルスタイル診断を利用して職場のコミュニケーションを促進するなど、楽しく継続しやすい企画を展開しました。さらに、プロジェクトメンバーが、社内の空きスペースにDIYでコミュニケーションスペースやKY・5S道場を作り、コミュニケーションや人財育成の場を広げています。こうした活動が、まさに地図を塗り替えるように事業所内を変えており、本当に頼もしく思っているところです。

ラウンドテーブルでの討議でKAIZEN活動がレベルアップ

2 KAIZEN活動 ~たゆまぬKAIZEN活動継続による現場力強化活動~

東北事業所のKAIZEN活動は、創業当初に始まり、事業所を挙げて年2回実施してきたKAIZEN大会はすでに105回を数えています。KAIZEN活動は、現場、ライン、職場単位の活動を土台とし、毎月行う活動発表会や現場ツアー、事業所全体の大会、リコーインダストリー全社の大会へとつながり、さらに海外拠点も含めたリコーグループの大会も開催されています。
このうち、事業所全体の大会とリコーインダストリー全社の大会では、グループ討議を取り入れ、ラウンドテーブルでの学び合いを行っています。各テーブルには、生産管理、技術、検査、品質保証など異なる部門のメンバーが集められ、参加者全員が一つのテーマを討議し、お互いに気付き、学ぶ時間を作ることにこだわりを持って継続しています。全従業員一人当たりの改善提案件数が増加傾向にあるのは、ラウンドテーブルの効果ではないかと考えています。

デバイスやIoT活用によるデジタル化と生産革新

3 生産革新 ~デジタルマニュファクチャリング(DM)実践による生産革新~

5年ほど前から、本体事業、キーパーツ事業、サプライ事業それぞれの特性に応じたDMに取り組んでおり、今日はその中でも、本体事業のDMについて紹介します。
プリンターの組立工程では、さまざまなエッジデバイスやIoTを導入し、人作業のデジタル化を進めました。ドライバーの電気信号、部品箱に取り付けたセンサーなどにより、実績作業管理や作業プロセス保証を実現。誰がどの工程でどの作業をいつ実施したか、すべてトレースできるようにしています。
さらに、トラブル情報の管理にスマホを活用し、作業者から班長へのトラブル報告もスマホで可能になりました。トラブル情報がデジタルで残るだけでなく、通知が届いた時点でトラブルのおおまかな種類が分かり、班長が現場で打つ手が一手早くなります。また、天井にIPカメラを取り付け、正確な事実の把握もできるようになりました。今後、骨格の情報から正しい作業が行われたかが分かる骨格検知の導入も考えています。

しかしその一方で、いくらビッグデータがリアルタイムで取れるようになっても、それを使う現場力、データを見る眼力、データを改善に繋げる力といったアナログな要素も、しっかり鍛えていく必要はあると考えています。「鬼に金棒」という言葉がありますが、弱い鬼にいくら強い金棒を持たせても、振り回すことはできません。“デジタル”という金棒が威力を発揮するためには、“現場力”という鬼が体力を付ける必要があります。人財育成においては、現場力とDM活用を両輪で強化していきたいと考えています。

「備えあっても憂いあり」東日本大震災の教訓

4 防災(BCP) ~東日本大震災からの学び・気付きを活かしたさらなる防災強化~

私たちの防災活動は、13年前の東日本大震災を転機として、大きく変わりました。あの震災で私たちは、人知を超えた自然の力をいやというほど思い知らされました。工場では300㎏もある製品が倒れ、あらゆるものが散乱し、天井が落ち、屋外タンクが倒壊しました。発災直後に発生した停電のため、作成していたBCPプランはパソコンから出力できず、結局役に立ちませんでした。電話や通信が断絶し、社員の安否確認も出社可否の連絡もできず、近くの葬祭場で借りた立て看板を幹線道路沿いに設置して、操業停止を社員に知らせました。
私たちは「備えあれば憂いなし」という思いで、震災の何年も前から、建屋の耐震工事やBCPマニュアルの整備を行ってきました。しかし、東日本大震災で想定を超える被害を受けて痛感したのは、「いくら備えがあっても憂いはある」ということでした。とはいえ、備えていなければ事業所の復旧・復興はさらに遅れていたでしょう。憂いを最小限にするために、やはり備えは必要です。コロナ禍を機に始まったリモート勤務に対応し、防災組織のメンバーが不在の際の行動マニュアル「MARUWAKARIシート」の作成、年2回の防災ウイーク中に毎日全社員に防災クイズを配信して防災意識を高めるなど、震災以来、しつこく徹底して防災力を高める取り組みを続けています。

昨今、デジタル化やスマートファクトリー化が進んでいますが、私たちは、安否確認シートや初期行動に関する重要な書類は、紙で管理運用することが、有事の際の最大の保険であると学びました。どれほどデジタルが進化しようとも、命に関わるものだけは紙=アナログで運用するということは、今後も継続していきます。

今までご紹介してきた、5SやDMによる現場の見える化、KAIZEN活動で生まれたチームワーク、機動的に動ける知恵や知見、東日本大震災からの学びは、有事に強いものづくりDNAとして、これからも事業所を「グッドファクトリー」たらしめてくれるものと考えています。