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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

第19回 第一線監督者の集い:福岡最優秀事例賞 発表レポート

ダイキン工業株式会社会期:2023年11月8日(水) 場所:福岡国際会議場 Release January. 2024

第19回 第一線監督者の集い:福岡 最優秀事例賞【ダイキン工業】 イメージ
最優秀事例賞[講演内容]派遣従業員から組長までのサクセスストーリー~これまでの経験を経て部下たちに伝えていきたいこと~
ダイキン工業株式会社
空調生産本部 臨海製造部製造課
組長
片 秀次氏

正社員登用から組長へと昇進し、ライン運営の難しさを痛感。
ラインに与える影響は設備や作業遅れだけでなく、モチベーションの低下など、人に起因する要因が大きく影響し悩み続けていました。
これまでの経験を糧に全従業員が働きたいと思える職場環境作り、管理監督者として成長するまでの内容を紹介します。

「こんな職場で働き続けたい」

今回報告させていただく内容は、私が派遣従業員から現在に至るまでのことになります。当時の私は、いろいろな悩みを抱えながら仕事に携わっていました。そんな中、私はダイキンの提案制度を知ります。ラインを良くするために行った改善内容を評価・表彰する制度です。これはチャンスだと思い、1日に1つの改善を実施するようにしました。

その中で、私の心境に変化が訪れます。「ダイキン工業の仕事って面白い。こんな職場で働き続けたい。自分も組長になりたい。」、私の中で何かが変わった瞬間でした。

そこから正社員になるため、より一層、改善活動に明け暮れるようになります。さまざまな苦難を乗り越えその努力が実り、2014年には正社員登用試験に合格します。しかし、ここからが本当の戦いの始まりでした。

コロナ禍で全員のモチベーションを上げる

努力が評価され、私は2022年1月に組長へと昇進しました。そんな矢先に、大きな試練がやってきます。2022年4月、新年度が始まりますが、激動の1年間となりました。コロナ禍の影響を受け、全てが計画通りに進まず、年間の生産性を達成していくための目標も未達の日々が続きます。

こうした大変な時にこそ、みんなの力を合わせるべきなのですが、ラインの状況はコロナ禍のコミュニケーション不足の影響も受け、私が思っていた以上に深刻な状況になっていました。

作業改善をしても、モチベーションが下がってしまっていては効果が出ません。「コロナ禍で希薄になっている人と人のつながりをなんとかしないと崩壊してしまう」と危機感を覚えました。大事なのは人です。作業改善の前に、職場の雰囲気を改善することが必要だと考えました。

メンバーとのコミュニケーションを深めていくうちに、ラインが抱えている状況が見えてきました。業務量の多い社員の方が改善件数が多い傾向にあり、逆に業務量が少なく、余力のある社員の方が改善が少ない傾向にありました。

業務の負担が偏っており、業務量の多い社員に負荷がかかるため、それ以外の従業員にきつく当たってしまっている状況で、それが要因となりラインの雰囲気がギスギスしてしまっていることがわかりました。ここにメスを入れなければ、ラインの雰囲気が良くなることはありません。

全員のモチベーションを向上させるよう、業務量の分担ができれば、職場の雰囲気は良くなるのではないか。そう考え、私はモチベーションが低下しているメンバーと対話してみました。本音を聞くと、やはり、やりがいを感じることができていないということがわかりました。

充実感を感じることができるように

何か彼らのためにできることはないか。私が「社員になりたい。組長になりたい。」と思い、がむしゃらになれた時のように、彼らにやりがいを感じてもらうことはできないか。そう考え、私はモチベーション関係の書籍を漁り、1冊の本に出会います。心理社会的発達理論の本でした。

その本によれば、アイデンティティの確立ができていると、仕事も遊びも主体的に充実感を持って実行できると書いてありました。つまり、アイデンティティの確立がされていないと充実感を感じられず、主体的ではなくなるということです。

そこで私はアイデンティティの確立診断というものを実施してみました。いくつかの質問に回答し、アイデンティティが確立されているかを分析する簡易的なツールを使用し、今のメンバーの状況を把握してみることにしました。全員がアイデンティティを確立できれば、ライン内の雰囲気を良くできるのではないかと考えたのです。

確立方法としては4つあります。組長としてできることは、目標を見つける手助けと会社内での役割を自覚させることです。そこで、彼らに目標や役割を与えるには、まず私自身がメンバーを理解することが必要と考え、特性の分析をおこないました。

分析結果をもとに、あえて成功体験を得られるよう仕事の配分を再立案しました。得意であり興味がある業務で、少しハードルの高い仕事を与えていくようにしました。

主体性を持ち仕事に取り組むことが大きな成果に

与えたテーマに対しては各自、予想以上の完成度で展開し、以前までギスギスしていた雰囲気でのミーティングが変わっていきました。ある日の朝礼では今までにない一体感が生まれていました。この時に確実に何かが変わってきたことを実感し、改善がさらに進む予感がしました。その予感は見事的中し、前向きな意見がどんどんと出てきました。

ラインメンバーがひとつとなり、その甲斐あって、大きく落としていた生産性目標を達成することができるようになりました。これもみんなが一丸となって、改善活動に邁進してくれたおかげです。

一人一人がやりがい、主体性を持ち、仕事に取り組むことが大きな成果につながっていく。この1年で私たちの持つ可能性を改めて実感することができました。

ダイキン工業には「人を基軸におく」という経営理念があります。人の持つ無限の可能性を信じ、組織としての力を徹底して高めていこうとする考え方です。しかし、その可能性をつぶすのも人です。管理監督者が一人一人と向き合うことがとても大切で、認め合い、尊敬しあうことが重要だと理解することができました。

コーディネーターの講評

様々な思いや考え方を持っているメンバーをどのようにうまくまとめていくか、そのことに関するお話だったと思います。素晴らしいと思ったのは、悩んだ時に、まず現状確認をしたことです。これは重要な思考法だと思いました。

現状の一人一人のメンバーを確認して、自ら学んだアイデンティティ診断を実施したとのことでしたが、現状を把握することから始めなければ、うまくいかなかったのではないかと思います。何が必要で、そして、一人一人に対して、どのようにすれば良いかを考えたところが成功の秘訣だったのではないかと思います。

そう考えますと、ご自身を見直すこともそうですし、個人のアイデンティティを確認することもそうですが、何かを解決しようと思った時には、必ず現状をきちんと見て、考えることが大切なのだと思います。そういった点が非常に優れていたと思いました。

株式会社 日本能率協会コンサルティング
石山 真実氏