日本能率協会(JMA)の最大の強みは、経営者をはじめとする産業界の方々から厚い信頼をいただいていることです。
その要因は、JMAだからこそできる「本音で語り合える場」を提供していることにあります。JMAという組織を支える「経営審議会」、「理事」、「評議員会」は、数多くの企業からご参画いただき、JMAの事業の内容や方向性について助言をいただく場です。そこでは、産業界や会員各位の課題や要望を持ち寄るだけでなく、これからの日本の産業界のあり方や方向性など本質的な議論が企業や業界の枠を越えて交わされています。
JMAが提供するそれぞれの事業でも本音で語り合う場を設けています。例えば、セミナーや展示会でも必ず交流の場として実施される懇親会です。セミナーなどで議論し、共有した課題について、飲食をしながら深く語り合うことができます。
その場に参加するJMA職員は皆様のお困りごとをお聞きし、その場で適切な方々をご紹介することを心がけています。懇親会の場が人の交流するプラットフォームとなり、共通の価値観を持った人々のエコシステムが醸成されていくのです。
私も限りなく多くの方々をご紹介してきましたが、JMAでの交流に共通するのは、互いに与え合う関係が成立していることです。「ギブ&テイク」ではなく、「ギブ&ギブ」なのです。事業での相談ごとをした場合も、もちろん企業や団体は持続するための収益は必要ですが、基本的には「せっかくJMAで出会えたのだから前向きに対応したい」という姿勢で臨むので、そこから成り立つ関係性によって末長いご縁が育まれていくのです。
戻すべきは本質的な交流が生まれる対話の場新型コロナウイルス感染症の蔓延とそれに伴う行動制限によって、本当に多くのことが大きく変わりました。JMAの事業がコロナ禍以前にそのまま戻ることはありません。このウィズコロナ、アフターコロナの時代において、事業は「より進化させること」と「戻さなければいけないこと」に二分されると私は考えています。
「より進化させること」の例としては展示会があります。一般的に展示会は大きな会場に数多くの人々が集まる場であり、展示会の目的は質の高いビジネスマッチングです。大規模な集客のスタイルが最善な方法なのかを見直しながら、デジタルも活用して新たな手法を模索していくべきです。
研修の場合、他社交流を重視するセミナーは必ず対面で行い、スキルアップセミナーはオンラインで行うなど、内容に合わせて学べる体制を整えるといった方法もあるでしょう。
「戻さなければいけないこと」は、人の本質的な関わりを生む交流の場です。リアルな対面での出会いや対話の機会づくりは戻されなければいけません。新年の賀詞交換会、展示会の開催に伴う懇親会、そしてセミナーの懇親会などです。
セミナーの実施方法は、情報の取得や共有が目的であればオンラインでよいのですが、本質的な議論を行い、信頼関係を構築するにはリアルな対面の場に戻さなければなりません。これからの企業や団体を担うマネージャーの方々が、胸襟を開き、本音で対話して、互いのプライベートな話題を語り合うぐらいのご縁の場になるべきだと考えています。
社会を動かすためにJMAがファーストペンギンであれ本音で語り合い、リアルな場で対話を重ねることは、JMAを運営するうえでの生命線だと私は考えます。
JMAでは、理事や経営審議員、評議員など当会の運営に参画される企業の方々から「今、何を求めているか」を直接お聞きしています。そのため、産業界が求めるリアルなニーズを直接、知ることができます。そういった方々と丁寧な対話を続けていくことこそがJMAの羅針盤となります。
皆様に厚い信頼をいただき、そして業界や企業の枠を超えて本音で語っていただけるのは、JMAが80年以上能率の向上に取り組んでおり、日本の産業界が世界の中で競争力を高めていくための団体であるという大義があるからです。その原点を決して忘れることなく、産業界や経済界と対話をしながら、JMAが何をすべきかを明らかにし、そして実行していかなければなりません。
これまでも、対話を重ねることから、学術機関との連携、そして中央省庁との協働が生まれてきました。今後は政界とも対話しながら実行力をつけていくことも重要だと考えています。JMAは特定の利益を代表する業界団体ではありません。だからこそ提言できることがあるはずです。
例えば、2020年4月に緊急事態宣言が発令され、6月まで人の行動と経済活動が大きく制限されました。その後の7月にBtoB展示会を初めて開催したのはJMAでした。目的は、ビジネスインフラとしてのBtoB展示会が必要であるというメッセージの発信です。「BtoB展示会の再開!」というニュースが報じられる時、「日本能率協会」という冠があることがインパクトになると信じて再開に踏み切りました。
JMAの強みは「各論と実論で貢献すること」です。単に「こうするべきだ」と言うだけでなく、具体的にどうすべきか「各論と実論」に落とし込んでいきます。まさにコロナ禍で最初に展示会を再開したように、我々が「ファーストペンギン」になることで、社会が動いていく。そう信じて社会への提言の機運づくりに取り組んでいきます。
JMAにはフラッグシップとなる展示会が3つあります。
まず、FOODEX JAPAN(フーデックス)/国際食品・飲料展は、「アジアへのゲートウェイ」と位置付けています。日本は食品安全の基準が厳しく、味やブランドへのハードルも高いので、日本市場で受け入れられた商品は近隣諸国でも評価される傾向にあります。日本発のグローバルな展示会を通じて、世界の食が豊かになることを目指しています。
HCJは、ホスピタリティとフードサービスをテーマに、国際ホテル・レストラン・ショー、フード・ケータリングショー、厨房設備機器展の3展示会で構成しています。日本の成長分野は観光産業やサービス産業です。その伸びしろがある産業がさらなる成長にドライブをかけていくための、ソリューションやコンテンツが一堂に会しています。
そして、国際物流総合展です。物流業界は産業界を支える動脈を担いながらも、ドライバーの負担軽減といった労働環境の改善や、低炭素物流への転換も強く求められています。国際物流総合展は、物流業界の待ったなしの課題である経営戦略の再構築に必要な物流機器や情報システム、サービスなど最新のハードとソフトが集結するアジア最大級の展示会です。
JMAではこれらの展示会を成長させて、アジア諸国での存在感を高めていきたいと考えています。JMAの事業に参加する日本の産業界の方々が「ギブ&ギブ」で互いを高め合う関係を構築しているように、社会課題へのソリューションを提示するJMAの展示会をアジア諸国へと広げることで、近隣諸国とも「ギブ&ギブ」をし合える関係を構築していきたいと思っています。
ご縁をつなぐために“be・do・have”を徹底する昭和の政財界のリーダーたちに影響を与えた思想家の安岡正篤先生の教えに「縁尋機妙 多逢聖因(えんじんきみょう たほうしょういん)」という言葉が出てきます。「良い縁がさらに良い縁を尋ねて発展していく様は誠に妙なるものがある。また、いい人に交わっていると良い結果に恵まれる」という意味です。まさにJMAが実現し、さらに高めたいご縁のプラットフォームの有り様は、「縁尋機妙 多逢聖因」に言い表されています。
そのご縁をつなぐために、私たちJMAはどうあるべきか。私は職員にいわゆる “be・do・have”の順序を大切にするよう伝えています。
“be” は人の有り様、“do”は行動、そして “have”は成果です。人としての心持ちがあり、そこから生まれる行動があって、結果が生まれる。事業で言えば売上という結果は、さまざまな外的な要因に影響されますが、有り様と行動は自分でコントロールできるのです。
時には想定した成果を大きく下回ることもあります。しかし、その結果から逃げずに、謙虚に受け止めて、“be”を磨き直し、“do”を改善する。そうすれば、決して信頼を失うことはありませんし、必ずや、よい結果が伴ってくるのです。
JMAの目的は設立当初と変わらず、経営革新の推進機関としての役割を果たし、日本が世界をリードすることの後押しであり、その具体的な各論と実論を提供し続けることが私たちの大義です。そのためのベースは、参画していただく方々のご縁をつなぐプラットフォームとして機能していかなければなりません。私はこれからも「縁尋機妙 多逢聖因」をイメージしながら、“be・do・have”の愚直な実践を徹底させ、JMAの社会的な役割を果たしていくことに努めていきたいと思います。