JMA MANAGEMENT ロゴ

小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

温室効果ガス排出量・吸収量の検証を通じカーボンニュートラルへの機運を高める

地球温暖化対策センター Release January. 2023

温室効果ガス排出量の報告内容検証イメージ
本人左

日本能率協会地球温暖化対策センター(JMACC)は、温室効果ガス排出量・吸収量の第三者検証に取り組んでいます。日本は2050年までに、温室効果ガスの排出をゼロにする、すなわち「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しています。温室効果ガス排出量削減の機運が高まる中、JMACCはISO14065(温室効果ガスに関する妥当性確認及び検証を行う機関に対する要求事項)の認定を受けた第三者機関として、情報開示された温室効果ガス排出量の報告内容の信頼性を向上するための検証を継続して実施しています。本稿では地球温暖化対策センター長の鈴木健司がJMACCの経緯と特徴、そして今後の展望についてご紹介します。

地球温暖化対策センター長 鈴木健司
地球温暖化対策センター
センター長 兼 検証審査部長 鈴木健司
製鉄会社でプラント設計のエンジニアとして18年間勤務。そのうち2年間は青年海外協力隊としてタンザニアで理数科教師を務める。2008年、日本能率協会に就職。以来、温室効果ガスの検証業務に従事している。

温室効果ガス排出量削減の国際的な動向に応じて、検証事業に着手

日本能率協会(JMA)というと、展示会や研修の知名度が高く、温暖化対策の審査・検証事業はまだまだ知られていないので、まず事業の経緯からご紹介します。

2000年代に入り、地球温暖化に対する対応が世界で叫ばれ始めました。JMAでは、国際的な気候変動関連の枠組みへの対応支援として、2006年に地球温暖化対策支援室(現在の地球温暖化対策センター)を立ち上げ、温室効果ガス排出量・吸収量の第三者検証機関として公正・中立な活動を行うことで、企業の環境経営への寄与を開始しました。

2006年といえばアメリカのクリントン政権(1993年〜2001年)で副大統領を務めたアル・ゴアがドキュメンタリー映画『不都合な真実』で地球温暖化問題を直視すべきだと訴え、国際的な話題を呼んだ時期です。

私自身、当時『不都合な真実』を読み感銘を受けました。以前登ったキリマンジャロの山頂5895mで見た広大な氷河が確実になくなることをその本で知り、地球温暖化ということを強く身近に感じました。

また、1997年に採択された「京都議定書」では「温室効果ガス排出量を2008年から2012年の間に、日本では1990年比で6%削減すること」が要求されていました。JMAでは2009年から2017年にかけて、京都議定書に基づく「CDM(クリーン開発メカニズム)プロジェクト」における温室効果ガスの排出削減量の検証機関として国連(UNFCCC)から認定を受け検証活動をしていました。

現在は、スコープ1,2,3の温室効果ガス排出量の検証に加えて、下記に挙げる国内制度の審査・検証に広く対応しています。

代表的な国内制度一覧
  • JCM (2国間クレジット)
  • J-クレジット制度(排出源・吸収源)
  • 東京都「総量削減義務と排出量取引制度」
  • 埼玉県「目標設定型排出量取引制度」
  • SHIFT事業 (工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業)
  • カーボン・オフセット、カーボン・ニュートラル制度等

企業の温室効果ガス排出量把握・開示に関する取り組みを評価するCDPから第三者検証パートナーとして認定

温室効果ガス排出量に関する調査を実施し、情報開示するグローバルなシステムを運営する非営利団体としてCDP(Carbon Disclosure Project)があります。日本企業を対象としたCDPによる調査対象は2021年までは500社でしたが、2022年にその対象は東京証券取引所プライム市場に上場する全社(1839社)に拡大されました。対象企業は毎年、排出量の情報を報告することが求められ、CDPは評価のランク付けをします。

企業がCDPに報告するのは「サプライチェーンを含めたスコープ1,2,3の温室効果ガス排出量」です。原材料調達や製造、物流、販売、廃棄など、企業活動にまつわる一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量なのです。

JMACCはこれまでのスコープ1,2,3の検証活動の実績が認められ、気候変動の第三者検証パートナーとして国内で最初にCDPから認定され、現在、数多くの温室効果ガス排出量検証の依頼に関する問い合わせをいただいています。

CDPウェブサイトパートナーコンテンツ 画面キャプチャ
https://japan.cdp.net/partners

カーボンニュートラルに向けたグリーンカーボン、ブルーカーボンへの取り組み

カーボンニュートラルに向け、最終的にネットゼロとするための対応策の一つが、温室効果ガスの吸収量を増やすことです。JMACCはJ-クレジット制度の森林吸収量を検証できる数少ない検証機関の一つとして、企業や自治体からの依頼に応じています。近年、カーボンニュートラルに向けた取り組みが加速されていることから、吸収量の検証に関する依頼は非常に増加しています。

森林などの陸域によって吸収・貯留される炭素が「グリーンカーボン」と呼ばれるのに対して、海草藻場(アマモ場など)やマングローブ林などの海域で吸収・貯留される炭素は「ブルーカーボン」と言われています。ブルーカーボンに関する取り組みをクレジット制度として立ち上げているのが「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)」です。JBEによるクレジット(Jブルークレジット)認証における審査認証委員会の委員として参加し、本制度の立ち上げを支援しています。

企業の温室効果ガス削減に向けた「新たな算定」の検証に取り組み、カーボンニュートラルに貢献していく

地球温暖化対策センター長 鈴木健司 その2

企業は、2050年カーボンニュートラルに向けてさまざまな挑戦をしています。企業にとってのスコープ3のカテゴリ1(購入した製品・サービスによる排出量)の算定において、サプライヤー側の排出量の把握と削減が一つの課題となっています。というのは、現状のサプライヤーとの取引金額によるCO2排出量の算定では、取引金額を減らさない限り排出量が減らないからです。そこで、企業は金額による算定の代わりに、サプライヤーから排出量の入手を試み始めています。

JMACCでは、CDPとサプライチェーンプログラムのデータ活用を検討しています。CDPが所有する一次データ(取引先の実績データ)、二次データ(産業平均など)を算定に活用する際の課題抽出と検証方法確立のため、算定・検証トライアルを企業とともに実施しています。

カーボンニュートラルに向かった算定方法に対応できる検証技術を高めることにより、これからも企業などの温室効果ガス削減に向けた活動を力強く支援していきたいと考えています。