お客さまの喜びが
自分の喜びにつながる

審査・検証センター マネジメント・マーケティング系 エキスパート
松本 素之(Motoyuki Matsumoto)

農業土木のエンジニアからJMAに転身して約10年。地球温暖化対策支援のほか、ISOの審査、営業、マーケティングと幅広くこなす。
地球温暖化対策支援の一環で行った森林審査では、手探りの中、山深い森林に何度も足を運んだ。
「途上国支援など社会に役立つことをやりたい」と語る松本の視線は、どこに向いているのか――。

途上国の人たちの役に立つことがしたい

学生時代、バックパッカーとしてあちこちと行ってきました。仕事で行ったのを含めると、これまでに訪れた国は50近くになるでしょうか。
沢木耕太郎の『深夜特急』(※)ですか? もちろん私にとってもバイブルです(笑)。
大学の専攻が農学部の農業環境工学だったこともあり、卒業後は農業土木の建設コンサルタントに入りました。農業関連の水路、パイプライン、ポンプ等の設計や、圃場整備、既存設備のストックマネジメントなどを担当しました。
たいていはCADやエクセルに向かって黙々と設計をするのですが、ときには事業計画の大枠作成のため、地域の方々とのワークショップなども行いました。
日本では、蛇口をひねれば当たり前のように水が出ます。しかし世界的にみると「当たり前に水が出る」ことが、どれほど貴重なことなのか、当時先輩からよく聞きました。農業に関しても「水路が1つできると、お祭りがはじまる」というのです。
当時、海外事業から撤退していたため、なんとか途上国支援に携われないかと転職を考えるようになりました。

途上国の人たちの役に立つことがしたいと語る松本氏

こうした中、JMAで地球温暖化対策に関連する事業を行っていることを知りました。具体的には、「国連のクリーン開発メカニズム(CDM)」のための温室効果ガス排出量の検証です。CDMとは、先進国が途上国に対し技術や資金面で支援を行うことによって生じた排出削減量(吸収量増大量)を他の企業や国と取引する仕組みです。
JMAは温室効果ガス排出量の検証事業を立ち上げて間もない時期。思い切って応募した結果、ご縁をいただき、温室効果ガスの検証を行う事業部へ配属されました。

(※)
深夜特急・・作家・沢木耕太郎による紀行小説。
80年代後半~90年代前半にかけて順次刊行された。
インドのデリーからバスでイギリスのロンドンまでをめざす旅を描いたもの。
当時、バックパッカーの間でバイブル的な書籍とされた。

お客さまとの対話から課題を引き出す

入職後は、地球温暖化対策支援室(現・地球温暖化対策センター)で、希望どおり国内外の検証事業に携わることになりました。現在でも日本独自の制度である二国間クレジット(JCM)により、モンゴル、チリ、パラオ、ベトナム、中国といった国に出向き、審査を行っています。多くの場合、英語が使われるため、Eラーニングを使って英語の学び直しをしました。

学び、と言えば入職後ISOの審査員としてのトレーニングも受けています。ここ数年は仕事の幅も広がり、ISO関連の業務が増えています。実際、ISO9001(品質マネジメントシステム)とISO14001(環境マネジメントシステム)の審査員として、審査に入ることもあります。ほかに、ISOの良さを理解いただき、利用につなげていただくための営業やマーケティング担当の役割も担っています。

前職と比べると仕事の仕方、人とのかかわりが180度変わったように思います。とにかく増えたのが、メールの数と会う人の数。
元々人と会って話しをするのが好きだったこともあり、苦に思うことはありません。

心がけていることは2つあります。1つめは、当たり前のことですが「聴くこと」。ですが、聴くだけでは十分ではありません。
お客さまの声を聴きながら、お客さま自身の本当の課題をうまく引き出すことが重要です。他人から自分のこと、あるいは自社の問題点を指摘されるのは、面白くないものです。話を聴きながらここが問題という点を発見したら、同業ではこういう風に改善しましたよ、とか、似たようなケースではこう対処しました、といったような事例の引き出しをなんとかこじ開けて話し合いをもっています。

2つめは、相手によってコミュニケーションスタイルを変えることです。審査においては、経営トップから現場の方までさまざまな方にヒアリングをします。相手の立場に立ち、相手の考えに寄り添って丁寧に聞いていくことが重要なのです。
審査というと、えらそうな人がえらそうに聞くというイメージをお持ちのかたもいらっしゃるかもしれません。しかし実際は、いかにお客さまに有益な情報を提供できるか、お客さまご自身に気付いていただくかに注力しています。それがJMAの審査員の強みであり、最高品質の審査につながると考えています。

新しいチャレンジに躊躇なく取り組む

JMAに入って、約10年がたちます。いろいろな経験をさせてもらっていますが、これまで一番印象に残っている仕事は、J-クレジット制度の森林審査の仕事を立ち上げたときのことです。
J-クレジット制度とは、省エネ機器の導入や森林経営などの取組による温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。
適切な森林経営により生み出されるCO2の吸収量を審査・検証してクレジットとし、売却することで、地方自治体や森林経営者にとっては貴重な収益源となるのです。

幸い大学の研究では海外の森林のCO2吸収がテーマで、近しい分野でしたが、第三者性が求められる検証となれば目線は全く異なり、手探りの部分も多かったです。
ただ、検証先の方々と、何か共感できることがあると、一気に相手との距離は縮まり、しかも、審査の中、ふと視線を遠くにやると本当にすばらしい景色が広がっているんです。チャレンジしてよかった、と心から思える瞬間でした。

J-クレジット制度の森林検査の写真1 J-クレジット制度の森林検査の写真2

JMAには、やりたいと提案したことに対し、「やってごらん」と背中を押してくれる風土があります。そして周囲にも「やりたいこと」をもっている同僚がたくさんいます。
いま新たなチャレンジとして取り組んでいるのは、「SDGs」を浸透させること。SDGsは持続可能な世界を実現するために必要な17の国際的目標です。貧困や飢餓、健康や教育、さらには安全な水といった途上国支援を連想させる目標から、気候変動、平和と公正といった地球全体の目標もあります。

新しいチャレンジに躊躇なく取り組

直接的ではありませんが、学生時代から描いてきた開発途上国の支援に資する活動でもあり、とてもやりがいを感じています。
いまは、2019年からスタートする「SDGsフォーラム」の仕込みの真っ最中です。大企業中心に、企業経営を通じSDGsを実践する取り組みが進んでいますが、これからは特定の業種、規模にかかわらず、SDGsに取り組んでほしい。そのための考え方、ノウハウ、他社事例などを、フォーラムでは共有していきたいと考えています。

企業にSDGsを広めた次のステップは、一人ひとりのSDGs実践への支援です。塵も積もれば、というように、個人の実践が企業経営に大きなインパクトになると思います。そういう個人レベルの活動を見える化し、測定・検証ができれば、温室効果ガス排出量の検証のように、クレジットの取引にもっていけるのではないか、そんなことを考えています。

社会の一員として自分のできることを実践

よく、働きがいと言われますが、私の場合は、自分の仕事によりどれだけお客さまに喜んでいただけるか、に尽きます。お客さまに笑顔を届ける、そしてその先の社会がよりよい姿になる、これが理想です。

社会の一員として自分のできることを実践

私生活の面では、この10年は、2人の子育てと介護がちょうど重なりました。保育園の送り迎えについては、妻と分担。私は朝担当として、出張など不在のときを除いて出勤前に保育園に通う日々が続きました。介護については、子供たちも含めて家族全員で協力して行っています。
仕事だけ、プライベートだけ、といった区別をつける、というよりは、どちらも上手くバランスをとるというのが、なんとか日常を転がしているコツのようなものかもしれません。長女とスイーツを食べにいったり、長男とテニスに行ったり、そんな休日も過ごしています(笑)。

PROFILE

大学卒業後、農業土木の建設コンサルタントでエンジニアに。2008年JMA入職後、地球温暖化対策支援室(現・地球温暖化対策センター)に配属。
地球温暖化対策支援のほか、ISOの審査、営業、マーケティングなどを担当。

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